大学でメンタル不調の長男を案じる母の悩みと精神科医の助言記録

大学進学した長男を案じる母親が、柔らかな光の差す窓辺で静かに遠くを見つめているセミリアルタッチのイラスト。低彩度のベージュと薄グレーを基調とした落ち着いた雰囲気で、半身の横向き構図。

2026年8月6日 
木曜日 パーソナリティ:柴田理恵
回答者: 和田秀樹(精神科医)


こんにちは、悟(さとる)です。

本日はテレフォン人生相談から、大学進学後にメンタル不調を抱えた長男を心配する母の相談です。

■大学進学後に変化した長男の様子と母の不安

相談者は51歳の母親。夫は54歳で単身赴任中、18歳の双子の兄弟がいます。

長男は自宅から飛行機で2時間ほど離れた地方の大学に進学し、一人暮らしを始めました。

次男は自宅から30分ほどの専門学校に通っており、家には母と次男が暮らしています。

長男が遠方の大学に進学したことで、母は「空の巣症候群」のような寂しさを強く感じるようになりました。

家にいた頃は、朝の支度や通学の様子を間近で見ていましたが、一人暮らしになってからは日常の様子が分からず、電話で短く話すだけの日々が続きます。

その距離感が、母の不安をいっそう大きくしていました。

もともと長男は、高校時代から「表情が暗い」「友達が少ない」と家族に心配されていた存在でした。

母自身も精神的に不安定な時期があり、長男の様子を見ながら「自分に似てしまったのではないか」と感じることもあったと語ります。

■高校時代から見えていた孤立とメンタルの兆候

長男の高校生活は、決して順風満帆とは言えないものでした。

新しいクラスになった当初は、周囲の生徒が話しかけてくれることもありましたが、次第に長男の対応が「塩対応」になっていき、友人関係は広がらず、結果として3年間をほぼ一人で過ごす形になっていきました。

母が「どうして友達を作らないの?」と尋ねると、長男は「話を合わせるのが面倒くさい」と答えます。

周囲に合わせることよりも、自分のペースや感覚を守ることを優先していた様子がうかがえますが、その選択は結果的に孤立を深める方向に働いていました。

さらに、高校2年生の頃には、長男が「半年くらい、ずっと『死ね』『キモい』という声が聞こえていた」と打ち明けたこともありました。

家族はその事実を後になって知り、母は「そんな状態だったのに、なぜもっと早く言ってくれなかったのか」と衝撃を受けます。

この頃から、長男は朝起きることが極端に苦手になり、登校時間ぎりぎりまで寝ていることが増えました。

遅刻も多く、3年生の後半には「半分以上は遅刻していた」というほど、生活リズムが乱れていたといいます。

それでも、担任の先生は長男の事情を理解し、強く叱責することはせず、見守る姿勢を取っていました。

母はその配慮に救われつつも、「このまま社会に出て大丈夫なのか」という不安を抱え続けていました。

■大学進学後に現れた耳鳴りと不眠、そして受診

大学に合格したとき、家族は心から喜びました。

母も「やっとここまで来てくれた」と安堵し、長男の新生活を応援する気持ちで送り出します。

しかし、遠方での一人暮らしが始まると、母の寂しさは一気に募り、「長男と一緒に暮らせないことがこんなに辛いとは思わなかった」と語るほどの喪失感に襲われました。

長男自身も、大学生活の中で新たな負担を抱え始めます。

夜なかなか眠れず、耳の中で「ザワザワするような音」が聞こえるようになり、日常生活に支障が出てきました。

母は電話越しにその訴えを聞き、「これはただの疲れではないのではないか」と感じます。

そんな中、祖母や叔母が長男の様子を見て「目が死んでいる」「表情がない」「嬉しそうに見えない」と心配を口にしました。

家族の目から見ても、長男の変化は明らかだったのです。

母はインターネットで症状を調べ、「統合失調症ではないか」という疑いを抱くようになります。

もちろん、自己判断で診断を下すことはできませんが、過去の幻聴や現在の耳鳴り、不眠、孤立などの要素が重なり、母の不安は頂点に達していました。

その後、長男は自ら心療内科を受診し、睡眠や不安を和らげる薬を処方されます。

通院はすでに2回目を迎え、症状は「だいぶ落ち着いてきている」とのことですが、診断名はまだはっきりしていません。

医師からは「様子を見ていきましょう」と伝えられている段階です。

■母自身の不安定さと「見守り方」への迷い

相談者である母自身も、精神的に不安定な時期を経験してきました。

長男が遠方に旅立つ前後には、寂しさから涙が止まらなくなり、家族の前でも感情を抑えきれずに泣いてしまうことがあったと語っています。

長男が帰省した際には、母の実家で祖母や叔母と顔を合わせる機会がありましたが、その場で長男の表情の乏しさが指摘され、母は改めて「この子は本当に大丈夫なのだろうか」と不安を深めます。

現在、母は夫とともに長男の通う心療内科を訪ね、主治医に話を聞こうとしています。

診断名がまだ確定していないこと、薬の副作用が少ないと説明されていることなどを踏まえつつ、「どのように長男を見守ればよいのか」「どこまで干渉してよいのか」という点で迷い続けているのです。

母の問いは、「長男をどう支えればいいのか」という一点に集約されます。

自分自身も精神的に揺れやすい中で、長男の状態を過度に心配しすぎると、かえって長男の負担になるのではないかという葛藤も抱えています。

■和田秀樹先生の見立て:診断よりも今の生活を整えること

白い壁と窓辺に差し込む柔らかな光を描いたミニマルなイラスト。淡いベージュと薄グレーの低彩度トーンで、余白を多く取り静けさを感じさせる構図。

ここで、精神科医の和田秀樹先生が、長男の状態について冷静に整理しながら助言を行いました。

和田先生は、まず「統合失調症かどうか」という診断名にこだわりすぎないことの重要性を指摘します。

過去に幻聴があったことや、現在の耳鳴り、不眠などの症状から、可能性として統合失調症スペクトラムを疑うことはあり得ますが、診断は慎重に進めるべきであり、現時点では「様子を見ながら治療を続ける段階」と捉えるのが妥当だと説明しました。

そのうえで、和田先生が重視したのは、長男の日常生活の安定です。

睡眠リズムを整え、大学の授業に支障が出ないようにすること、過度なストレスを避けること、そして薬の効果と副作用を見ながら、主治医と相談を続けていくことが大切だと語ります。

また、母がインターネット情報から「統合失調症ではないか」と不安を膨らませている点についても、和田先生は「情報に振り回されすぎないように」と穏やかに注意を促しました。

診断名はあくまで治療方針を決めるための一つの目安であり、家族がそれを背負い込みすぎると、本人以上に苦しんでしまうことがあるからです。

和田先生の助言の核心は、診断名よりも『今の生活を少しずつ安定させること』に家族の意識を向けるという点にありました。

■家族にできる「距離感のある支え方」とコミュニケーション

和田先生は、母の「どう見守ればいいのか」という問いに対して、家族の関わり方についても具体的に言及しました。

まず、長男が自ら心療内科を受診し、薬を飲みながら生活を続けていることは、本人の主体性が保たれている証拠だと評価します。

自分の状態を言葉にし、医療機関に足を運ぶことができているという点は、治療において非常に重要な要素です。

家族に求められるのは、「過度に踏み込みすぎない支え方」です。

毎日の電話で細かく様子を聞き出そうとすると、長男にとっては監視されているような感覚を生む可能性があります。

一方で、まったく連絡を取らないと、孤立感を深めてしまうこともあります。

そこで和田先生は、短い電話やメッセージで「いつでも話を聞くよ」という姿勢を伝えつつ、長男が話したいときにはじっくり耳を傾ける、というスタンスを勧めました

家族ができるのは、長男の生活を代わりに整えることではなく、「安心して戻れる場所がある」と感じてもらえるような関係を保つことだと先生は示しています。

■まとめ

今回の相談から浮かび上がるテーマは、「若い世代のメンタル不調」と「家族の支え方」です。

高校時代から孤立しがちだった長男は、大学進学という大きな環境変化の中で、不眠や耳鳴り、過去の幻聴など、さまざまな症状を抱えながら生活しています。

一方で、母は遠方からその様子を想像するしかなく、不安と寂しさの中で「どう支えればいいのか」と問い続けています。

和田秀樹先生の助言は、診断名にとらわれすぎず、今の生活を少しずつ整えながら、医療と家族がそれぞれの役割を果たしていくことの大切さを静かに教えてくれるものでした。

私が感じるのは、メンタルの問題を抱える家族にとって、「完璧な支え方」を探すよりも、迷いながらも対話を続けること自体が、すでに大きな支えになっているということです。

母の不安や揺れもまた、家族として真剣に向き合っている証であり、その思いがある限り、長男にとっての「帰れる場所」は失われません。

メンタル不調を抱える家族を支えるとき、診断名よりも『安心して話せる関係』を少しずつ育てていくことが、何よりも大切なのだと感じさせられる相談でした。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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── 悟(さとる)

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