2025年10月27日(月曜日)
パーソナリティ:加藤諦三
回答者:大原敬子(幼児教育研究)

こんにちは、悟(さとる)です。
人は誰しも「過去の出来事はもう終わったこと」と思いたいものですが、心の中では、時間が止まったままの痛みを抱えていることがあります。
特に、愛する人に裏切られた経験は、年月を経てもなお、心の奥で疼き続けることがあります。
今回は、30年前の不倫を今も許せず、夫を責め続ける妻と、その妻を前にどう向き合えばよいのか悩む69歳の男性の相談です。
長い夫婦の時間の中で生じた「許し」と「償い」のすれ違い。
その心の機微をたどってみましょう。
30年前の過ちが、いまも夫婦を縛る
69歳の男性相談者には、結婚して40年近くになる妻がいます。
二人の子どもはすでに独立し、現在は夫婦二人きりの生活です。
しかし、穏やかに老後を迎えるはずだった生活に、長年封じ込めていた「過去の罪」が再び姿を現しました。
30年前、男性は当時の部下であった女性と4年間の不倫関係を持っていたのです。
ある日、妻が自宅を整理していた際に、古い手帳と写真を見つけ、その中には二人の関係を示す証拠が残されていました。

妻は激怒し、離婚も口にしましたが、当時はまだ子どもが幼く、「家庭を壊してはいけない」という思いから関係を続けてきました。
しかし、子どもたちが巣立った今、妻の中で長年押し込めていた怒りや悲しみが噴き出してしまったのです。
妻の問い詰めと、終わらない罪の償い
男性によると、数年前までは2〜3ヶ月に一度、妻から「当時のことを思い出して話してほしい」と問い詰められる程度でした。
ところが近年は週に一度のペースで激しい言葉を浴びせられるようになったといいます。
「女にやったことを私にもやってみろ」
「その女にどんなふうに触ったのか、言ってみろ」
妻の言葉はときに侮辱的で、男性の心をえぐります。
けれども、妻の方にも止められない思いがあるのでしょう。
彼女にとって、その不倫は“過去の事件”ではなく、“今も続く裏切りの象徴”なのです。
男性は「もう何十年も前のことだから、記憶が曖昧で思い出せない」と答えますが、そのたびに妻からは「まだかばっている」「思い出を大事にしているのね」と責められる。

「どうすれば妻を癒せるのか」「これ以上、心を乱されずに暮らすにはどうすればいいのか」
男性はそう問いかけます。
大原敬子先生の助言:妻の怒りは“裏切られた時間”の証
大原先生は、まず「妻を癒す」という言葉に慎重な姿勢を見せました。
「人は他人を“癒す”ことはできません。特に、加害者が被害者を癒そうとすることは、相手の痛みを軽んじる行為にもなり得ます。」
妻が求めているのは、「癒し」ではなく、「理解」と「誠実な謝罪」です。
30年前の出来事を、夫は「もう終わったこと」と思っているかもしれませんが、妻にとっては「終わっていない」。
裏切られた当時の痛みが、今も生々しく続いているのです。
「忘れた」ではなく「向き合う」
妻に問い詰められるたび、「覚えていない」「忘れた」と答える男性。
けれども、大原先生はその答えこそが、妻を再び傷つける原因になっていると指摘します。
「“忘れた”という言葉は、妻にとって“反省していない”という意味に聞こえます。あなたが本当に忘れているとしても、その姿勢のままでは、妻の心は決して安らぎません。」
必要なのは、「何をしてしまったのか」「その結果、どんな悲しみを与えてしまったのか」を言葉にして伝えること。
自分の過ちを隠さず、曖昧にせず、「あなたの信頼を壊してしまったことを悔やんでいる」と伝える。

その言葉だけが、妻の心の奥にある「わたしは軽んじられた」という痛みを少しずつ和らげるのです。
妻が怒りを繰り返す理由
人は、心に深い傷を負うと、その痛みを何度も再現し、相手に“同じ苦しみを味わわせる”ことでしか安心できないことがあります。
大原先生はこう語ります。
「奥さまが繰り返し同じことを尋ねるのは、過去の出来事を確かめたいのではなく、“そのときの自分の存在を確かめたい”からです。」
つまり、妻は「あなたにとって私は何だったのか」「あのとき、どうして裏切ったのか」という問いを、心の奥で繰り返しているのです。
男性が「過去のこと」と線を引こうとすればするほど、妻はその線の向こう側に置かれてしまう。
だからこそ、妻の問いを遮らず、「あの時、本当にあなたを苦しめてしまった」と、言葉を尽くして寄り添うことが求められます。
信頼を“取り戻す”のではなく、“積み上げ直す”
信頼は、壊れると二度と元には戻りません。
しかし、新たに積み上げていくことはできます。
大原先生は、「これからは“癒やす”のではなく、“信頼を積む”という意識で向き合うことが大切」と語ります。
その第一歩として、妻の前で「誠実であること」を示す行動を少しずつ積み重ねること。
外出の予定を明確に伝える、過去の証拠を処分する、妻の話に真摯に耳を傾ける――。
どれも小さなことかもしれませんが、時間をかけて「この人は変わった」と感じてもらうことが、何よりの償いになるのです。
男性自身の心のケアも忘れずに
30年の時を経て、なお責められ続ける状況は、男性自身にとっても辛いものです。
しかし、「もう疲れた」「許してほしい」という気持ちをそのまま妻にぶつけてしまえば、関係はさらにこじれてしまいます。

大原先生は、「夫もまた、誰かに支えてもらう必要がある」と述べます。
信頼できる友人やカウンセラーに話すことで、自分の中の罪悪感や疲労を整理し、心のバランスを保つことが大切だと助言しました。
まとめ
長い年月の中で、夫婦は何度もすれ違い、傷つけ合うことがあります。
けれども、真に向き合う姿勢があれば、人は何歳からでも関係を変えていける。
今回の相談は、「許し」とは“終わり”ではなく、“続けるための努力”なのだと気づかせてくれます。
夫が過ちを心から受け止め、妻の怒りを“まだ愛している証”と感じられる日が来たとき、ふたりの関係は、また新しい形へと変わっていくのかもしれません。
放送はこちらから視聴できます。
今日も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
人生に正解はありませんが、誰かの悩みを知ることで、自分の心が少し楽になったり、新しい考え方に気づけることもあります。
このブログが、読んでくださった方の「明日を生きるヒント」になれば嬉しいです。
またぜひ遊びに来てくださいね。
以上、悟(さとる)でした。


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